【子育てグッズ研究会】表紙


ソウルの風に吹かれて 2 担当:ソウル在住 藤原典子
 
「帰りはバスに乗ってみようか。」 長男の日本人学校幼稚部の入園手続きを終えて、私たち家族4人は帰路につき ました。直通のスクールバスでも30分かかる日本人学校に通わせるにあた り、タクシーだけでなく、バスを使っても行けるようにしておかなければと 思ったのでした。ハングル語がまだ読めない私たちは、路線バスの番号だけを 頼りに待つこと約5分。ようやく来たバスに急いで乗り、500ウォン(約5 0円)を料金箱に入れ、席に子供を座らせようとしていると、もたもたしてい る私たちのことなど全くおかまいなく、バスはいきなり急発進したのです。 「ソウルのバスは運転が荒い」とは聞いていたものの、まさかこれほどとは 思ってもいませんでした。4才の子供には持ち手をしっかり持っているように 言い聞かせ、自分もようやく席にすわりました。しかし、バスの運転はますま す荒くなり、急発進・急停車は当たり前、カーブも速度を落とさずそのまま 突っ込んでいくではありませんか。 これでは、まるで映画「スピード」のバスのようです。「お願いだから横転し ないで」。心の中でいのりつつ、地図を片手に今走っている所を確認しなが ら、なんとかバスを降りることができました。降りたときには、4人ともぐっ たり、スリルとサスぺンスの30分でした。

日本では高齢化社会に向けて、バスが見直されているようです。家の近くで 乗り降りでき、ホームへの長い階段もない。日本のバスは、乗客がきちんと座 るまで発車しないし、バス停で待っている人がいると必ず止まってくれます。 (ソウルでは道路へ出ていって「私のります!」と運転手さんに目でしっかり 訴える必要があります。)人に優しい、細かい所まで行き届いたサービスで す。では、ソウルではお年寄りや子供連れはバスに乗っていないのでしょう か。いえいえとんでもない、もしかすると日本より多くのお年寄りや子供連れ がバスを利用しています。かく言う私も、いまでは子供を2人連れて、時には 息子のお友達まで連れてバスに乗ることがあります。運転の荒さに慣れたこと もありますが、子連れでのっていると誰かが必ず助けてくれるからです。席を 替わってくれたり、座っている人が子供を抱っこしてくれたり・・・…子供と一 緒にバスや電車にのってずっと立っていたことは、今までなかったような気が するくらい、ソウルの人たちは子供連れやお年寄りに優しく、大切にしてくれ ます。たとえ、バスの運転が荒くても、たとえ、道路に段差が多くて歩道がか たがたでも、道行く人に助けられ、「だいじょうぶ?」と声をかけられること でお年寄りや子供連れでも気軽にお出かけできる・…ソウルはそんな優しい街 です。 

「子供に優しく、かわいがってくれる」ことは、バスや電車の中だけではあ りません。食事に行ったとき、街中で、買物をしているときなどなど、本当に よく「かわいいね」とか「いくつになったの」などと声をかけられます。ぐ ずっているときでさえ、「どうしたの?」「泣かないで」とにこやかに言って くれます。子供にぐずられている私としては、そのにこやかな表情に接するだ けで、ずいぶん精神的に楽になるものです。 こんなこともありました。パン屋さんの前を通ったとき、キャンディーの陳 列が目にはいった娘は、「あめ、あめ」と大騒ぎを始めました。「ここで買っ ては、癖になる」と私も「絶対ダメ」などと恐い顔でおこっていました。娘は ますます抵抗して、売り物のキャンディーを手に持ち、頑として譲りません。 するとそこへお店のご主人が慌てて飛び出してくるではありませんか。あぁ、 何といって謝ればいいのか、韓国人は怒ったら恐いというし……一大ピンチを 前に固まってしまっている私の前で、そのご主人は、なんと、にこやかに娘に 売り物のキャンディーを持たせてくれたのです。そればかりか、少し先を歩い ていた息子にまでキャンディーをくれて、けっきょく私は何も買わずにキャン ディー2個をゲットしたのでした。(「飴ぐらい買ってやればいいのに。日本 人はけちだなぁ」と思われたでしょうね。)

皆さんは、子連れでお出かけするときに何を持っていきますか。着替え、タ オル、オムツ……そして決して忘れてはならないものが、おだまりグッズです よね。ちょっとしたおもちゃや、飴やおせんべいやジュース。ぐずったときに 子供の機嫌を早く直したい…・それは子供のためであり、親のためでもあると 思います。子供がぐずってまわりに迷惑をかけるから、まわりの人たちの冷た い視線があるから、一秒でも早く機嫌が直るものをここぞとばかり子供に与 え、普段は与えすぎないように注意している甘いものも、つい与えてしまって いたりして・・… そういえば、最近私は「おだまりグッズ」を持ち歩かなくなりました。下の娘 は飴が大好きで、私が持っていると知ると最後の一つまで食べ尽くさないと気 が済まずついつい与えすぎになることや、少しでも荷物を少なく身軽にしたい こともさることながら、ぐずってもまわりを気にしなくてすむ精神的なゆとり が一番の理由だと思います。くずっていてもまわりの視線があたたかいこと は、子供にむやみに媚びることなく凛とした態度で子供に接することを可能に してくれます。 さらに、誰からも可愛がられて成長していく子供は、それだけで自分を可愛が り大きな自信をつけることでしょう。韓国の人たちが、明るく前向きで、何が あってもくじけないたくましさを持っているのはそんな社会の中で育ってきた からかもしれません。 

初めて母子3人でソウルから飛行機に乗ったとき、私は隣に座っている人が 韓国人だとわかって、思わずほっとしました。成田まで2時間30分足らずと はいえ、飛行機の中は歩きまわるわけにもいかず、子供が飽きてくずくずいう の目に見えていたからです。なんとか、成田まで無事到着し入国審査もクリ アーして、横浜までの直通バスに乗ったとたん、電車に乗れると期待していた 息子は大泣きを始めてしまいました。聞き分けのない息子に腹を立てながら、 ここでどなってしまってはかえって逆効果、爆発させたい怒りを必死で押さえ ながら、一生懸命なだめてもパニックになっている息子はますます大騒ぎで す。ふと見ると、そんな私を冷たい視線で見ている中年男性が。「あぁ、ここ はまぎれもなく日本なんだ」。こんなところに日本を感じてしまった悲しい一 瞬でした。 (ソウル在住 藤原典子) 


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